福禄寿酒造を後にして一路新潟へ。途中にある「由利本荘」には「由利正宗」、「雪の茅舎」、そして「美酒の設計」を醸す齋彌(さいや)酒造さんがあります。この日は、酒造開放していなかったのですが、いつもお世話になっている後藤酒店さんの紹介を受けて、見学をさせていただくことができたのです。
なんて幸せなことでしょうか。
ずっと前から行ってみたかった秋田の蔵の1つがこちらの齋彌酒蔵さんでした。あまりに伝えたいことが多すぎるため、2部構成にいたします。
向かう途中では味噌蔵や醤油蔵などがありました。間もなく見えてきた齋彌酒蔵さんは古い建物が、とても情緒ある雰囲気を醸し出していました。なんでも、建物は「有形文化財」であるとのこと。
当日は蔵の中を、くまなく見学させて頂きました。
ここから蔵の入り口です。かっこいいですねー。
■仕込み水
蔵に入ると、井戸があり、水がこんこんと沸いていました。飲ませていただいたら、柔らかな口当たり・・・と思いきや、その硬度は「中硬水」に値するのだそう。また、秋田の中では1,2の硬水であるとのことでした。しかし、飲んでみた印象は、ひとりでに喉に落ちていくというのではありませんが、そこまでの硬さを感じるものではなかったように思います。
■釜場
お米を蒸したり、放冷したりする場所ですが、特徴的だったのは、麹室で種麹をつけるのではなく、釜場・・・蒸米放冷機の末端で種麹を散布してから、その後麹室へ引き込むということです。何故か?それは後で麹室を見学するので、その時に紹介させていただきます。
■洗米
完全にヌカを取るために、2回洗っているとのことでした。これも特徴的ですね。
■仕込蔵
2Fでは速醸、1Fでは山廃を仕込んでいるという蔵ですが、こちらでは全体数の40%が山廃なのだそうです。昔は自社での山廃のニーズは全体の10%しかなかったということですが、実際に山廃のニーズは年々少しずつ増えてきているのだそうで、これには食生活の変化等:肉料理や味の濃いものに関しては、酸があるお酒の方が合うということ。などが影響しているのではないかということです。
昔は山廃というと「臭くて重い」というイメージがありましたが、本来の山廃はそうではないということ。しかし、私も山廃というと、そんなイメージを少なからず持っていたかもしれません。
こちらの蔵での仕込における最大の特徴は、モロミに「カイ入れをしない」ということ。
モロミタンクの中では微生物達のバランスの取れた世界が成立しており、その世界を崩さず、自然に任せるという考え方なのだそうです。仕込日数毎に整然と並んだ仕込タンクを見比べながら突如、タンクの中のモロミがモコッと盛り上がり、対流していました。生き物なんだなぁと思いました。それを眺める蔵の方の目からは、自分の子供を見つめるような、大きな愛情を感じ、心が暖かになりました。
考え方の根っこの部分、「米の味を超える酒はない」そして「いかに米の味を損なわせないか」ということに基づいてあらゆる工程が整合性をもっていたなと思いました。全ての「やること」「やらないこと」にはちゃんと「根拠」があり、それを分かりやすく説明して頂きました。
とはいえ、「酒屋万流」という言葉があるように、それがいい悪いではなく、齋彌酒蔵さんではそういうやり方をすることにより美味しいお酒ができるのだということですね。カイ入れに関しても実際にやったものとやっていないもので飲み比べたら、やっていないもののほうが齋彌酒蔵さんでは美味しくなったのだそうです。
もうひとつの特色が、純米酒以外はすべて無ろ過原酒だということ。それなのにアルコール度数は16度。普通原酒といえば18度~20度くらいなのに何ででしょう??そういったお酒を造るのも、「米の味を損なわせない」という考え方に基づくもので、割り水をしないということにつながっているのでした。そのため、使用しているのは自社酵母で、発酵が進みにくいという特徴を持っているのだそうですよ。
そして驚いたのは、数値計測が行われていないということ。モロミタンクのそばには計測しているようなボードもなく。。。
「そろそろ絞る時期だよということを、酵母達がちゃんと教えてくれるんですよ」
と!
「酒度はなりゆきなんですよ」
とも!
モロミの表面の表情を見ていると、それが分かるのだそうです。もう少しで絞れるかな、という時には頻繁にモロミを見に行くのだそうです。
本当に自然に任せているのですね。
***驚きに包まれた見学は【後編】に続く***